れですも色々

本棚 右一段目後ろ

右側の本棚は殆どが古書です。
一冊一冊、乏しい本代から集めました。
ここに書く一段目後ろは私にしては珍しく単行本ばかり。

「朝鮮戦争」vol1~3 児島襄 文藝春秋
これには他の本とはちょっと違う思い出がある。
3年ほどだが韓国系の方の会社に勤務していた。
現金管理だが何もなければ読書は問題ない。
ひたすら読んだ時期でもある。
いつもは行かない会社近くの古書店で3冊一遍に売っていたので購入。
買った本はすぐに読みたい私。
3冊のうち2.3を机に立てかけ、1を読み始めた。
そこへ滅多に事務所には来ない社長が。
慌てて立ち上がった私に「いいからいいから」とにこにこ笑った好々爺の社長の目線はこの本の背表紙を見て釘付けになった。
社長は朝鮮戦争の動乱を避けて日本に来たのだ。
「日本人でも読むんだね」と言ったあと、座り込んでつらかったであろう戦争の記憶をたどって下さった。
「これ読んで判らなかったらいつでもおいで」と言い、社長は事務所から去った。
仕事や実績には厳しい方であったが、よくある日本人への偏見などは微塵も見せなかった。

この本が書かれたのは未だ韓国も情報公開など殆どしていない時代であった。
今こそこの本で書ききれなかった朝鮮戦争をどなたか書いてくださらんか。


「一軍人の生涯 提督 米内光政」緒方竹虎 光和堂
著者は前の国際高等難民弁務官緒方貞子さんの近しい親族でもある。
この本の初版は昭和29年に出版された。
年月を経て再版され、今も尚「米内本」の原点にもなっている。
私の最も尊敬する海軍軍人の一人。
印綬を帯びた時は時の世論に随分と叩かれたが、茫洋とした風貌、悠揚迫らざる挙措で日本を終戦に導いた。
男とはかくありたいものだと思う(女だけどそう思う)
米内の墓標の字は緒方の筆による。

「新版米内光政」実松譲 光人社
著者は海軍兵学校51期生。少尉候補生での遠洋航海で艦長の米内大佐と初めて会う。
それからも不思議な縁で米内の軍人というよりも政治家としての影となって、仕えることになる。
海軍一色の本なのに表紙、表裏の見開きは東京大空襲の生々しい惨禍の写真。
著者は司馬遼太郎が「坂の上の雲」を執筆する際、海軍についてのよきアドバイザーでもあった。

「米内光政」上下 阿川弘之 新潮社
3冊の米内本の中では一番後発。
上の実松が存命であったので、阿川には米内を書く事に抵抗もあったようだが、伺いを立ててみると快く協力し、かつまた自著にはないエピソードまで教えてくれたと阿川は書いている。
流石に本職の小説家でしかも学徒動員によるなんちゃってと雖も元海軍将校。
3冊の中では一番すらすらとかつ、面白く読める。

「御前会議」五味川純平 文藝春秋
著者も多分今般の戦争への限りない「なぜ」からこの本を書いたのだろう。
非常に緻密な数字が出て来、また巻末の著者自身の戦前での軍需物資における日米比は1:74であったというのを読むと、確かに「なぜ」と問いたくなる。

「ノモンハン」 五味川純平 文藝春秋
私はこの本を読むのがつらい。
現場感覚というものを一つも持たず、将兵をいたずらに死に追いやり、しかもその結果を隠して更に勝てない戦争に引きずり込んだ参謀や高級将校達の卑しさと無能さ。
現代にもそっくり当てはまるので自分への戒めとしても8月には読むようにしている。
そういう風にでもして読むことを己に課さなければ、到底読めない。
ただ。
読むとまた腹が立ち、ぶつけどころのない怒りが湧いてくるのがまた困る。


「静かなノモンハン」 伊藤桂一 講談社
北海道には旧軍時代、旭川に第七師団があった。
ノモンハンはロシアに近い地でもあり、送られた将兵は七師団の者もいた。
主力は23師団であったが。

その師団の3人から聞き書きし、小説風にしたのがこの本。
よくある大活躍ものではない。
ノモンハン事件は通常の軍隊の死傷率の何倍もの犠牲を出した。
日露戦争の旅順攻略よりも死傷率が多いといえばお分かりだろうか。
普通であれば玉砕一歩手前の壊滅状態まで将兵は追い詰められた。
生き残ったというのは大変な事だっただろう。
付録に著者と司馬遼太郎の対談が付いている。
私は司馬にノモンハンを書いて欲しかったが、それを望むのはやはり残酷であったろう。

「陸奥爆沈」 吉村昭 新潮社
昭和18年6月8日正午頃、陸奥は突然爆発、沈没した。
すでにミッドウェーで軍人空母を多く失い、更には同年4月に山本五十六聯合司令長官も失って海軍の呈を成しているとは言いがたい状態になったいた。
日露戦争の旗艦であった三笠も火薬庫爆発を起こしているが、原因究明は充分とはいえない。
著者にとっても何か煮え切らない結末というか調査であったと思う。

「軍艦長門の生涯」上下 阿川弘之 新潮社
海軍関係では一番読み返した本。
初出は新聞連載で、司馬遼太郎の「坂の上の雲」の後。
適度な横道への逸れ方とまとめ方は阿川の最高傑作だと思う。
お勧め本。
長門の最期は華やかに散り、アニメにも名を遺した大和とは違う。
戦争には生き残ったが、ビキニ環礁で核実験に使われ最期を遂げた。

「戦艦大和の最期」吉田満 講談社
3篇から成る本。
著者は学徒出陣で大和に乗艦し、撃沈された後終戦を迎え22歳で初稿を書いた。
美しい文語体で淡々とした筆致。
流石に戦前の教育というのは本物であった。
全巻を通して生き残ったものの哀切があり、そして同時に見事な描写がある。

「戦史ノート」児島襄 文藝春秋版
私が訳のわからん戦後教育を受けている頃から戦史を書き綴ってきた著者のネタ帳。

「私のなかの海軍予備学生」阿川弘之 昭和出版
掌編と対談と随筆、紀行と盛り沢山な寄せ集め本だが、どうしてもこの中の一編が読みたくて購入した。
児島襄との対談「暗号と秘密兵器」である。

「井上成美」阿川弘之 新潮社
戦後、これほど徹底して隠遁した元海軍大将はいない。
前述の米内の女房役、頭脳として戦争終結に働いた。
また戦中海軍兵学校校長の時、英語を使わせまいとする海軍省、陸軍省に一歩も引かず在任中は英語教育をし続けた。
知られない終戦功労者でもある。

2003.8.27





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